装備調達の不透明化に拍車をかける「初度費」の存在

調達が13機で打ち切られたAH-64D

調達が13機で打ち切られたAH-64D

 

富士重工は戦闘ヘリコプター、AH-64Dアパッチ・ロングボゥ62機のライセンス生産を請け負うはずだった。しかし防衛省は途中で生産数を10機(後に3機追加)にまで削減してしまった。

富士重工はAH-64Dのライセンス料や、生産ラインの構築などに投じた初期費用など約350億円の支払いを防衛省に要求したが、防衛省はこれを拒否。このため富士重工は東京地裁に民事訴訟を起こした。

一審の東京地裁では富士重工が敗訴したが、二審の東京高裁は1月29日に、「発注の中止は信義則に反する」として、国に全額の支払いを命じるという判決を下した。

この一件は防衛装備調達が極めていい加減に行なわれてきたことを如実に物語っていると言えよう。数千億円規模のプロジェクトが防衛省と企業の間の口約束で行なわれてきたのだ。

多くの国では装備調達を行なう場合、総調達数と調達期間、そしてプロジェクトの総額が議会で承認され、初めてプロジェクトにGOサインがでる。それに対して我が国では総調達数や調達期間、調達総額が国会で審議されることなく、装備の採用が決まっている。これでは文民統制が機能しているとは到底言えない。

AH-64Dのように、防衛省の心変わりで初期投資が回収できなくなることが起こるならば、防衛産業はリスクを恐れて受注ができない。このため平成20(2008)年度から防衛省は、新規の防衛装備調達に関して、初年度に装備調達費とは別に、生産設備やライセンス生産であればライセンス料などの生産初期に必要な「初度費」の支払いを行なっている。

防衛省は初度費を以下のように定義している。

「初度費とは、特定の装備品のみで負担する(汎用品に効果を及ぼさない)設計費、専用治工具費、技術提携費等、主として製造の初期段階で投資される費用である。
これまで装備品の初度費は、複数年度にわたり継続的に調達を予定している全調達数量で割った額を(特別)割掛費として、各年度の装備品価格(単価)に計上していた。なお、調達予定数量が途中で変更された場合は、未償却分の初度費を、見直し後の調達残数で均等に負担させている」
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/cho-shin/gijiroku/67.html

初度費の支払いは装備調達の原則の大きな変更だが、防衛省はメディアに対してレクチャーすら行なっておらず、ほとんどのメディアはその存在を認識していなかった。平成20年度以降の概算要求や政府予算などの資料には、小さな文字で初度費を記載しているが、初度費の内訳は公表されなかった。

平成24(2012)年度からは防衛省の公開する資料で初度費が明示されるようになったが、これは財務省から促された結果であり、防衛省が自主的に行ったものではない。

しかも平成24年度から公開された「初度費」は本当の意味での初度費ではない。本来初度費はライセンス料や、製造ラインの構築費、治具の調達費用など、生産開始に必要とされる経費のはずだが、その後の細かな改修費用なども初度費として計上されているのだ。

税金を使って行なう装備導入に際しては、初度費の総額を明示することが納税者と国会に対する義務のはずだが、現在の初度費は装備調達をより不透明にするだけでなく、装備調達を安く見せかけるために利用されているとしか思えない。(文:清谷信一)