東京防衛航空宇宙時評

キーマンに聞く 堀地徹防衛省装備政策課長(その2) 

堀地徹 防衛省装備政策課長

堀地徹 防衛省装備政策課長

 

(その1から続く)我が国は輸入に関してはパーセンテージベースでのオフセットを設定していないが、今後輸出においては相手国からオフセットを要求されるのではないか。オフセットに関する人員やノウハウは充分か?

堀地:「移転する場合のオフセットに関しては先方の国と話し合っていく。例えばインドへの飛行艇、US-2のケースならば金額で30%、整備施設やコンポーネントの生産などだろうが、基本的に先方の政策との調和を図る努力をする。例えばパーセンテージに相当する農産物などの輸入など間接的なオフセットであればそれはNSC(国家安全保障会議)、他省庁とも協議し、ケースバイケースで対応していく。

我が国は輸入オフセットについてパーセンテージを求めてはいないが、選定にあたってラインセンス生産であるとか、国内での整備力を高めることを評価するなどはしているが、総額のパーセンテージのオフセット設定は考えていない。またオフセットを設定したがゆえにコストが高く付く場合もある」

我が国の装備は一般に諸外国に較べてコストが高いのはネックでは?

堀地:「これまで我が国では競合がない場合が多く、生産には競争は必要だ。また国内調達にしても海外の製品と戦える程度のコスト削減が必要だ。国際競争力は必要だが、輸出価格を下げるために補助金を使うという発想はもっていない。ただ戦略的にコアな技術に関しては投資をしていく。競争はただ単に値段だけではなく、耐久性が高いとか、アフターケアが充実しているとか、納品が正確だなどという日本企業の強みのある、非価格競争力などで勝負する部分も出てくるだろう」

一般に日本のメーカー、特にプライムメーカーは主体的に輸出ビジネスを育てていこうという気概がなく、政府がやるなら追従していこうという雰囲気があるが。

堀地: 「日本のメーカーが他国と違うところは、日本国内でビジネスが維持できているのに対して、フィンランドやスペインなどは自国市場が小さく、国際市場での販売が不可欠であり、市場で生き残るためには強い競争力が必要だ。それを政府がバックアップするシステムが出来上がっている。

これに対して我が国のメーカーは防衛省だけが顧客だったので海外の情報に無関心だった。このため自分たちの製品やサービスのバリューが市場でどの程度の価値があるのか把握していない。そこの認識、マーケットリサーチがまずは必要だ。そのやる気を喚起するために、我々も多少突き放すようなスタンスを取る必要がある」

輸出企業、特に中小企業への支援は?

堀地:「UKTI(イギリス投資促進機関)や諸外国の機関とも接触して、企業へのサポートの仕方などの情報収集している。特に資金力や営業力に限界のある中小企業へ国がどのように支援するか検討する必要がある。実際企業のサポートは経産省が行うことになるだろう。」

 ロンドンで今年9月に開催されるDSEIに防衛省がブースを出すとのことだが。

堀地: 「予算は確保しており、日本パビリオンに出展する。技術研究開発や防衛政策を理解してもらうことを目的としている。またそれが出展する民間企業との相乗効果を発揮することになればと思っている」

 中小企業の海外の軍事見本市などへの出展に経済的な支援は考えているか?

堀地: 「それは一義的には経産省の産業振興で対応するものだと思う。しかしながら、今後中小企業からどのようなニーズがあるのか、どのようなサポートが効果的なのか、防衛省に何ができるのかということは防衛省としても中小企業へのヒアリングや有識者検討会などの議論を通じて検討していきたい」

 防衛省はプライム企業以外のベンダーや、防衛産業に入っていないが高い技術力をもっている潜在的なサプライヤーである企業の情報に疎いのでは?

堀地: 「今までの防衛省の防衛調達の取り組みではそのような傾向があった。しかしながら素材、サプライチェーンなどを把握しておくことはロジスティクスを運営する上でも、装備品を運用する意味でも重要だ。装備の開発をする上でも、どこに強みが有り、またどこに弱みがあるのかを把握する必要がある。

中小企業に関して言えば、M&Aで外国企業に買収されることもあるだろう。また国内企業がどのような形で国外企業に協力しているかについても把握する必要がある。そのような観点からも企業の情報把握は必要だ。昨年から防衛省では国内企業の調査を開始している。作業は急を要すると考えている。対象となる企業にはクリティカルなデュアルユースの製品を製造しているメーカーも含まれる」

日本では国内企業でも防衛産業に新規参入することが難しいが、そのような国内企業の状況を把握するということは既存の防衛産業企業以外の企業にも参入の道を開くことになるのか?

「それはありうるだろう。守るべきものは守る必要があるが、供給が1社、シングルソースであること、なぜその分野で1社しかないのかを考える必要がある。シングルソースだと、そこが潰れた場合に供給が止まるし、コストも高くなりがちだ。ソースの複数化は必要だが、実態を調査しながらソースの多様化は図る必要がある」

海外との防衛装備関連の協力の進み具合は。具体的な話はあるのか。

堀地: 「米英仏豪の4カ国とは政府間協定を既に結んでいる。その他インドや東南アジアとは装備協力に関する可能性を探っている。その他多くの国々と接触している。

具体的な話に関しては、共通の装備を持っている国がやりやすい。例えばイタリアはF-35やKC-767など共通の装備があるが、欧州にはそのような国が多い。欧州諸国とは先進的な技術面での協力や共通の課題についての協力を、東南アジアなどでは地域内の安全につながる我が国らしい貢献をすることを考えている」

 欧州と具体的な将来の装備開発のプランはあるのか?

堀地: 「既にフランスとは3回ほど協議を持っているが、UAVやUGVなどの無人システムを中心に話をしている。まずはお互いにどんなことを考えているかということを、情報交換をしている段階だ。現在我が国で進行中のプロジェクトに関しては、何らかの可能性があれば外国とやってみたいが、それが無理ならば次世代のシステムに於ける協力を模索することになる。

このような対話が諸外国とできるようになったことの意義は大きい。例えばフランスであればタレスとかサフラン、エアバスといった企業がどんなことを考えているかわかるようになってきた。英国とも協議をしているが、世界が何を求めているのか、各国が我が国に対して何を求めているのはクリアに分かるようになってきた」

鎖国状態から開国状態になってきた?

堀地: 「そのとおりだ。唯一問題なのは、外国は既に我が国に対する情報も多く持っており、我が国はまだそれほど知らない。つまり情報が非対称な状態であることだ。

このため外国からは具体的な多くのプロポーザルは持ちかけられるが、こちらからボールを投げることがあまりできない状態だ。現状では対等なパートナーとして組むのは難しい。今後も積極的に外国の情報にアクセスする必要がある。だが、そうは言っても時間を無駄には出来ない。有望そうなプロジェクトがあれば積極的に参加して経験を積むことも必要だと考えている。日本の企業にもいい刺激になる」

 これまで国内企業は国営企業的な体質が強かったが、変わらざるをえない?

堀地: 「国際的な視野に立って自分たちのバリュー、自社の強み、弱みを客観的に把握して欲しい。日本の企業もそれをベースにしてビジネスに対する意識を変えていって欲しい。防衛省にしがみついていればいいという姿勢ではなく、自ら変革を行なわなければ地盤沈下をするだけだ。国際共同開発ではそのような姿勢、交渉力が必要だ。日本企業は海外市場に足がかかりをもっていない。このため独自に進出することは難しい。その意味でも他国とパートナーシップを組むことが必要だ。パートナーとして付き合うのか、下請けになるのかは利益が大きく異なってくる。」

安倍政権はインドへのUS-2、オーストラリアへの潜水艦の輸出など「大物」狙いの感が強いが、これらは政治的、外交的に多くの要素があり、輸出「初心者」である日本には荷が重いのではないか。むしろ初めは小さなプロジェクトや、コンポーネントなどの輸出に力を入れるべきではないか。

堀地:「確かに大きなプロジェクトの合意は難しい。英国とはミーティアの共同開発について話をしているが、次のステップに入るとき、どこの国がどの程度調達するのか、誰がどの程度出資するのか、英国だけではなく欧州の他国の参加、あるいは米国の参加はあるのか色々調整する要素が出てくる。これが上手くいけばモデルケースになるだろう。」

イギリスと搭載シーカーの共同研究が進められている長射程空対空ミサイル「ミーティア」

イギリスと搭載シーカーの共同研究が進められている長射程空対空ミサイル「ミーティア」

 

日本の短期、中長期的な脅威と、それに対する防衛省の装備要求とはどのようなものか?

堀地: 「周辺諸国の軍事動向について、例えば中国を例に取れば、国産空母、ステルス戦闘機などを開発中であると言われており、こうした我が国周辺の状況を踏まえ、防衛大綱等においては、島嶼部に対する攻撃への対応などに取り組んでいくこととしている。。このための機動展開能力の向上のためにオスプレイやAAV7などの導入を進めている。また海上自衛隊では潜水艦や護衛艦の増強などが既定路線として進められている航空自衛隊もF-35Aの着実な整備、警戒監視能力の向上のためにE-2Dの導入などを行っている。

開発アイテムでは個別に具体的に申し上げる段階ではなく、次の大綱、次の中期防の話となる。現状は現在の大綱、中期防に沿って防衛力の整備を行っている。各幕僚監部、技本では既にニーズとシーズの研究をしているはずだ。技本はニーズ側からも要求がでて、それをマッチングさせて次期大綱、中期防に反映されていくと思う。装備庁は研究開発のマッピングをしたり、分野ごとの評価、研究開発のビジョンを示していくことになるだろう。それが企業側の投資の呼び水になれば幸いだ」

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